私は身の引き締まる思いがして、治るかもしれないなどという甘い夢から覚めたのであります。 そんなものとはまったく無縁な現実の中に立ったのであります。 生活を維持するために、私は、できる限り少しでもプラスになるようなことをしていかねばならない。 そうしなければ自分も家族も破滅することになる。 そういう危機感を切実に感じとったのであります。 治すためにするのではありません。 治らないからこそ、そうせざるを得ないのであります。 ここが大事なところでありまして、日頃私どもは、目的本位にプラスの実践をすることが 大切だといって意識的に努力するように自分を仕向けておりますが、 そういう態度の裏には、意識するとしないにかかわらず「治すために」という意志が働いていることを 否定することはできません。 ですから、そういう努力は皆、治すためにしていることになります。 それがまた、苦しいときの神頼みで自然の人情でもありますから、 現実にはそうせざるを得ないのであります。 　特に初めのうちはそれでいいし、そうしなければとっかかりができないわけです。 またそうすれば、一時的に苦しみが増えましても、そのまま実践を進めておりますと 次第に楽になってきますから、そのやり方をおし進めていきますと、ある程度まではよくなるのであります。 やがては日常生活にも特に支障のない程度にはなると思います。 それで充分だと思う人はそれでいいし、それ以上求める必要なないわけです。 　ところが、それでは満足しないのが神経質の人たちでありまして、 ここまできたのだからもう少し先までいこうと考え、 どうしても完全に「とらわれ」をなくそうとしないではおれないところがあります。 ところが、それから先がどうしてもうまくいかないのです。 そうやっておれば次第に「とらわれ」が完全になくなってくれることを期待するのが当然なのですが、 実際はそうはいかない。 なぜいかないかというと、その裏に「治すために」という心があるからです。 その心がある限りすっきりした状態になることはできないのであります。 したがって最後は、どうしても、その心をなくさなければならないというところに行き着きます。 　そこで、どうしたらその「治すために」という心をなくすことができるかというと、 それには、今まで問題にしてきた「不快な感じ」はどんなことをしても「治らない」ということを 体験的に納得するしか仕方ないのであります。 治すための行為を長くやっておりますと、どうしてもそういうところに落ち着かざるを得ないのであります。 基本的に私どもは、異常ではないものを異常だと思いこんで、それを取り除こうとしているわけですから、 治るはずがないし、治ってはいけないのです。 したがって、最後は「治らない」ということをはっきり自覚しなければ、 どうしてもおさまりがつかないのであります。 　私どもは、治るかもしれないという思いが少しでもあるうちは、 その事実に対して真剣になることができません。 どこかに甘えが残ります。本当に治らないということがわかったら、 うかうかしてはおられないのであります。 そうなったら、あれこれ言わんでも必要なことはやるようになります。 それが事実本位の生き方だと思います。 ですから、この態度の切り替えができれば何も言うことはないわけです。 そうすると自然に次のような考えが出てきます。