私は森田的生き方は、主として「自力」の世界に属するものだと思っています。 ところが、現実の世界は他力と自力が相補って成り立っています。 これは、自分自身と自分の身の周りの事実をよく観察すれば自ら分かるはずです。 つまり、あるがままの事実を素直に如実に認めれば自ら納得されることです。 むしろ実態は、他力に支えられて、はじめて自力が発揮される、 という関係になっているのではないでしょうか。 森田先生は「修養でもっとも大切なことは、世の中の事実を如実にありのままに認めることであるが、 それがなかなかむつかしい」と申しております。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　私どもは、身の回りの事実を素直にあるがままに認めることによって、 自分一人で生きているのではないことに気付きます。 大自然の恩恵と多くの人々、すなわち社会の恩恵によって支えられ生かされている自分を発見します。 これは衣、食、住一つひとつについて考えても皆同じです。 ほとんど自然の恩恵や他人の作り育てたもののお世話になっているのが現実です。 そういった事実認識に立てば、自然にありがたい感謝の念が生まれ、 対立のない助け合いの世界が展開されていくように思われます。 　私は「人生とは助け合い運動だ」と思っています。 そういう目で世の中を眺めてみますと、そこに「生の欲望」が働いて、 世の中が生き生きしたものに感じられます。 そして私どもは皆生まれてよりこの方、親や社会の人達に助けられて自然に育ってきたわけです。 それがまぎれもない事実だと気付いたとき、 自分もその「助け合い運動」に参加せねば申し訳ないと思えてきます。 少しでもそのお返しをしなければと思うようになるものです。 それも「生の欲望」の一つではないでしょうか。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　こうして今自分が生きているのも他力のおかげだと言っても過言ではないと思います。 こう考えてみますと、自力が発揮されるのも他力のおかげと言うことになります。 ぜひ自分の周りに目をやって一つ一つその事実を確かめてみて下さい。 　このように「他力の恩恵」に気付くことによって、心の外向化がすすみ、神経症のとらわれや、 鬱のとじこもり状態からの解放を早めることになるのは間違いないと思います。