それよりも、今後ますます理知的な側面が発達した場合に、 人間のすべての問題が理知によって解決されるようになるかどかが気になるところである。 「人間に関して理知で解決できないものはない」という時代が本当にくるのだろうか。 もしくるとしたら、その時には人間は物質的にも精神的にも自分の力で自分を救うことが できることになって随分と楽になるだろうと思う。 理知によって解決するということは、ものごとがロボットのようにすべて合理的に整理されることだから、 内面的にも外面的にもまったく問題がないことになって 悩みも神経質症も宗教も精神療法も不用になり、 ただ薬物療法だけが残ることになるのではないかと思われる。 はたしてそんな社会が将来本当にくるのだろうか。 また来ていいのだろうか。 私は、もしそのような社会が実際に来たら 人間は生きる意味を見失って死滅してしまうのではないかと思う。 したがってそんな社会は絶対に来てほしくないが、現実の社会は合理性の追究に余念がなく、 徐々にではあるがその方向に進んでいるように思われてならない。 しかし、この不安は私の単なる杞憂であつて、現実にはそのような社会は永久に来ることはないだろう。 ただそういう方向に進んでいるだけであって、 それはあくまでも到達することのない永遠の課題ではないかと思う。