かつて私も今よりも素直さが欠けていて、何事にも反抗的で文句ばかり言っていた時があった。 そのために人間関係に行き詰まり、にっちもさっちも行かなくなり、 このままでは身の破滅以外にないと思う状況に追い込まれたことがある。 そこから逃げ出す道は死ぬしかないと思ったが、死ぬに死ねない自分であることを思い知らされ、 やむを得ず今のままで命の尽きるまで生きてみようと思うようになった。 そうしたら不思議に気持ちが落ち着いてきたのである。 　結果的に私は、素直でない自分を認め、やむを得ずその事実に従うことによって 素直さを回復したような気がする。 これもなかなか容易なことではないが、素直でない人が素直になる一つの方法ではないかと思っている。 　かつて発見誌で「神経質症を治す方法はないが治る方法がある」という記事を読んだことがある。 三重野悌次郎氏が書いたものであり、なかなか良い表現だと感心し事実もその通りだと思うが、 私の場合は自分が至らなくて森田を知って30数年も経っていたせいか 「治る方法もなかった」という思いが強かった。 これもある人のいったことだが「何の救いもないことを知ることが最大の救いである」 という意味の言葉がある。 これを神経質症の場合に当てはめると 「治らないことを知ることが最高の治癒である」ということになるのではないかと思う。 体験を抜きにしてこの言葉の意味を理解することは難しいと思うが、 私は体験的に神経質症とはそういうものだと思っている。 そして「治らないことを徹底的に知る」ために人は苦しみ悩むのである。 それを骨身にしみた体験として知らねばならないからである。 それは前記の素直でない人が素直になる方法とよく似ており、 人生には「求むれば得られず、求めなければ得る」という側面がたしかにあると思う。