今こうして、自分の神経症体験を振り返って見ますと、不思議なことは何一つなく、 全てのものが「なるべくしてなった」という思いがいたします。 私が神経症になったのも、そして苦しんだ末に、その苦悩から脱却したのも、 みな必然のなりゆきであったと思います。 永いようで短い過去の体験で無駄なものは何一つなかったように思われます。 私が普通の人間として生きていくために、神経症で苦しむ必要があったのだと思います。 何事も原因のない結果などあり得ないのですから、悩む必要があるから悩んでいる、 悩むから解決がある、そうして初めて「自己中心的なわがまま」なところが、 少しずつとれて視野が広がって行くのだと思います。 いま悩んでいる人も、やがて自分をそういった目で見ることができるようになると思います。 いずれそうならねばならないように、運命付けられているのが神経症で悩んでいる人達だと思います。 上記は、どのようにしてそうなるのかを、私の場合について述べたものです。 少しでも参考になるところがあれば幸いです。 　 　最後に森田先生の言葉を付記して、この話を終わりたいと思います。 「精神外向的なものには、いたずらに欲望に発展することを抑制し、 自己内省の修養をしなければ、あるいは冒険によって身を破り、 あるいはしばしば反社会的または非社会的なものとなることがある。 また内向的のものは、その生命の自然発動によって本来もっている生の欲望を発揮させ、 これに乗りきるようにして、苦痛の回避を思う暇なからしめ、 また一方には既に苦痛の回避、死の恐怖にとらわれているものには、純一にその苦痛、 恐怖を苦痛恐怖せしめて、思想の葛藤の起こる余地のないようにして、 主観的に相対を離れた絶対の苦痛になりきって、はじめてその苦痛の自覚を没却し、 ここにその本来もっている欲望が発展してくるのである。」 （『神経衰弱と強迫観念の根治法』　Ｐ−178） 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完