次に、欠点部分を自認すると言うことについてでありますが、これが簡単なようで、 実際は難しいところがあるように思われます。 たとえば、「几帳面である」という特徴の欠点は、「融通がきかない」ということなんですが、 几帳面であれば融通がきかなくて当然なのに、神経質の人は、 几帳面でしかも融通のきく人間になろうとするところがあります。 いつも融通をきかせていては、几帳面にはなれないのですから、どちらかを生かせば、 どちらかを犠牲にしなければならないわけです。 現実には、几帳面であることは仕事上にプラスになることが多いけれども、 一方では、融通がきかないという形で、それが障害になってくることもあります。 そういう時に、仕事をうまく進めようとすれば、几帳面さを多少犠牲にしても 融通をきかさねばならない場合が生じてきます。 実際には、実情をよく見た上でなければ決められない問題ですが、 そのように事実に即して目的を達成するために、 自分の特徴をある程度犠牲にすることができればいいのであります。 そういう客観的な必要性もないのに、あらかじめ融通のきく人間になっておく必要はないと思いますし、 またそんなことが簡単にできるものではありません。 そんなことをしょうとすれば、そのことがまた新しい神経症の原因になってしまうのであります。 　さらに次のようなことが言えます。 「欠点を許す心が足りない」という点について申しますと、そういう心が足りないことを素直に認めて、 それを恥ずかしく思っておれば、これ以上そういう傾向を助長することは忍びがたいという気持ちが 自然に出てきて、そういうことを上積みしないようになってくるのであります。 それに反して、欠点を許す心の足りないのは、人間ができていないからだと考え、 できた人間になろうとすれば、返って許さない回数を増やしてしまうものです。 何故かと申しますと、それは現在の自分の心の中の事実を無視して、 直ちに理想的な状態を意識的に作りだそうとしているからであります。 実際に自分の心の中に存在している、「欠点を許す心が足りない状態」は、自分の特徴の一面ですから、 どうすることもできないものです。 嫌だからといって、それを自分の思うように変えようとするのは間違いです。 そのような時に必要なのは、その事実をありままに認めた上で、現実をよく見て、 それが実際に他人に迷惑にならないようにすればいいのであります。 そういったところをなくしてしまう必要はないわけです。 そこのところを勘違いして、無理に許す心を持った人間になろうとすれば、 そのことがまた神経症を作りだす原因になってしまうのであります。 いづれにしても私どもは、こういった長所や欠点をありのままに自分の特徴として 認めていかねばならないと思います。 たとえ嫌いであっても、それらを無くそうとしてはいけないのであります。 仕方なくそれを受け入れ、長所を活かすように前向きに建設的に生きていかねばなりません。 それが如何に困難な道であっても、それ以外に生きる道はないのであります。 そこに神経質者の生き様の容易ならざるところがあると言ってもいいと思いますが、 その点については、他の性格特徴の場合にも言えることでありまして、 そういった厳しさについては皆同じだと思います。 人間が生きるということが、そういった厳しさを持っているということです。