まず「感情は意志の力で変えることができる」という認識について考えてみますと、 今まではそれが可能だと信じて、不快な感情をなくしようと努力してきたけれども、 その効果がちっとも上がらず、失敗ばかり重ねてきたのではないでしょうか。 とすれば、そういう考え方自体に間違いがあるのではないかと疑ってみなければなりません。 感情の法則を学んでみますと、それがとんでもない間違いであるということがよく分かります。 感情というのは、心の中の自然現象であって、それはあたかも水面にできた波のようなもので、 放置しておけば自然に消えていきますが、それを無理に消そうとすれば、その消そうとすることが、 また新しい波を作りだし、いつまで経っても消える時が来なくなる性質があるのです。 一度発生してしまった感情は、意志の力でなくすことはできないのであります。 そういった、感情の性質に対する無知が原因で、神経症になるケースが多いと思われます。 　 　「素質は意志の力で変えることができる」という認識も間違っています。 その理由は今更申すまでもないと思いますが、素質は親から遺伝的に受け継いだ天与のものであり、 それを活かして生きねばならない大切なものです。 したがって、これを意志の力で変えることなど全く不可能なことであります。 そういった事実認識が不足しておりますと、無謀にも素質を変えようとして努力するようになるのですが、 実際には素質を変える必要はなく、「とらわれ」さえなくすればいいのであります。 その辺の詳しい事情は別の機会に話しますが、この場合に「素質」を「性格」に換えますと、 状況はかなり変わります。 性格の中には、前述したように、後天的に付加された「習慣や癖」の部分が含まれていますので、 その部分は努力することによって変えることができるからであります。　 　 「気分は常にすっきりしていなくてはならない」というのも、現実を無視した無理な要求です。 それはちょうど、雲一つない晴天を常に求めているようなもので、瞬間的にはそういうこともありますが、 恒常的にそういう状態が続くということは現実にはあり得ないことです。 そのように客観的なできごとはすぐ納得できるのですが、心の中の主観的なことになると、 そう簡単に整理できないのが私どもの習性です。 そういうことを要求することが無理だと分かっていながら、それを求めてしまうところに、 神経症でとらわれている人の特異性があると言わねばなりません。 そういう当たり前のことが通用しない状態になっているということです。 これは全ての神経症者に言えることでありまして、そこがまたやるせないところですが、その点を解決するためには、求めているものがどんなことをしても得られないということを徹底的に体験して、 自ら納得する以外にないと思います。